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印刷博物館主催の企画展『黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版印刷文化』の図録にKANMAKIの箔が採用されました!

2025年4月26日(土)より、TOPPANホールディングス株式会社・印刷博物館で開催されている企画展 『黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版印刷文化』 図録に、KANMAKIの箔が採用されました。
企画展の詳細については、下記URLにてご覧いただけます。
https://www.printing-museum.org/collection/exhibition/t20250123.php
目次
この図録もまた、数百年後の未来に遺るかもしれない……
紙に黒いインキで文字や絵柄を複製する「印刷」は活版印刷技術発祥の地ドイツでは、魔術や魔法を意味する「ディ・シュヴァルツェ・クンスト(die schwarze Kunst)」と呼ばれています。
この企画展の図録のグラフィックデザインを担当されたのは、小玉文さん(BULLET Inc.)。
「究極の黒」を追い求め、ドイツの書体“ブラックレター”を並べて、連続する黒い森をすべて箔押しで表現するという前代未聞の試み。担当プリンティングディレクターを務めるTOPPANホールディングス株式会社の三木さんも「箔押しのみの表現という潔くも狂気的なデザイン」と肝を冷やした圧巻の構成。

画像出典:コスモテックさんのnoteより
図録の表紙の紙には、TAKEO PAPERさんの数ある黒い紙から、可能な限り黒の深さを追求したいという小玉さんの想いもあって「黒気包紙 U-FS」が選ばれました。
紙の選定の経緯については、小玉さんがTAKEO PAPERさんのWEBサイトで語られています。
https://takeopaper.com/special/anokono/detail/25043000.html
そして、そのこだわりの黒紙の上に、3種類の箔(艶消し黒、黒、金)をなんと計9回も重ねて押すことで、連続する黒い森を表現。
この複雑かつ緻密な表現を可能にしたのは、今回箔押し加工を担当されたコスモテックさんの確かな技術とクラフトマンシップです。
冒頭のタイトルの言葉は、仕上がりを見た小玉さんのつぶやき。
コスモテックさんのnoteに、今回の壮大な箔押しの記録と、企画に携わった皆さんの熱い想いが綴られていますので、ぜひご一読ください!
https://note.com/cosmotech/n/n23329a83dc7d
また、『デザインのひきだし55』でも、今回の図録の圧倒的な表現について、「黒表現が多重奏になった 『黒の芸術』展の図録がすごい」と題して、特集記事を掲載いただいています。
https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?cat=&p=60532
顔料箔にとって”黒色”とは・・・
顔料箔のメーカーにとって、白箔と黒箔は“ごまかしが通用しない”色です。隠蔽性や深みなど、他の印刷との差を一目で表現できていなければ負け。今回いただいた黒箔のオファーは、まさにその緊張感との真っ向勝負でした。
かくしてKANMAKIの艶消し黒箔「AB DF-8 BLACK」は、日の目を見ることとなったわけですが……
実は、今回の企画に合わせてKANMAKIが試作開発を行った黒箔は2種類ありました。
残念ながら、採用されたのは「AB-DF8 BLACK」のみでしたが、もうひとつの艶黒箔(CB-GEM BLACK)も想い入れの強い箔ですので、今回の「黒い森」を表現するプロジェクトの試みの一部としてご紹介させていただきます。
艶消し黒箔「AB-DF8 BLACK」について

マットな「AB-DF8 BLACK」の上に金の箔で「黒の芸術」の刻印が施されている。
世の中には多くの種類の黒箔がありますが、その黒の表現を司っているほとんどがカーボンブラックという顔料です。
しかしながら、今回KANMAKIが開発した箔の特長は、顔料の主原料に一般的なカーボンブラックではなく、高級画材に使用されるアニリンブラックを採用している点にあります。
マットな質感と深みを持ち、陰影をハッキリ表現することができます。
ただし、アニリンブラックは取り扱いがデリケートで、環境や条件によって黒の見え方が異なることがあります(青っぽく見えたり、赤っぽく見えたり)。
そしてもうひとつ、この箔を開発する際のポイントとなったのは、箔押しした部分に触れた時に“指紋がつかない”ようにすることでした。いかに綺麗な表現ができても、今回は図録の表紙が舞台ですから。顔料層の樹脂配合を工夫したり、表面に保護層を加えるなどして、指紋対策を行いました。この対策が功を奏したかは、実際に図録を手に取っていただければわかるかと思います。
艶黒箔「CB-GEM BLACK」について

「CB-GEM BLACK」は艶がある為、マットな「AB-DF8 BLACK」と一緒に使用すると
黒の色の中でコントラストや奥行きを表現することができる。
今回は惜しくも採用に至らなかったこちらの箔ですが、もともとは製本用の顔料箔ではなく、某欧州自動車メーカーのエンブレムやテールランプの装飾に使用されている箔です。
遮光性に優れ、僅か3μm程度の塗膜でLEDバックライトの光を漏れなく遮断できる高濃度な黒顔料を使用した箔。
今回の展示会のテーマが「黒の芸術」ということで、デザイナーの小玉さんから当初「究極の黒」というお題をいただきました。その中で、自動車部品の加飾で既に高く評価されているこの箔を製本用途に応用できれば面白いのではないかと考え、製本用の箔押し条件に合うように離型層と接着層の設計を練り直し、試作を重ね、今回デビューとなる予定でした。
しかしながら、校正テスト段階で指摘された課題が量産品でも解決できていないことが加工作業中に判明し、仕上がり期限ギリギリまで対応に努めていただいたものの、最終的には差し替えとなり、ご迷惑をおかけする結果となってしまいました。
顔料箔の未来とKANMAKIの課題
どちらの箔も、製本用はもちろんのこと、自動車部品をはじめとするプラスチック工業製品の加飾用、包装材料向けのインクリボンなど、あらゆる用途の顔料箔を製造・開発を行ってきたKANMAKIのノウハウがいろいろと詰まった箔です。
“プラスチックから紙へ”の流れが顕在化する中で、デザイナーやクリエイターの皆様は、プラスチックで表現してきたデザイン表現の応用、あるいは紙でしかできないデザイン表現に改めて取り組まれています。
この流れに応え、新たなデザイン表現の選択肢として、“顔料箔”を知っていただくこと。
そしてこれまで、「プラスチック用」「紙用」で分かれていた箔。
そこをボーダーレスに対応できる製品へと進化させること。それがこの企画に挑むにあたってKANMAKIとして考えたことでした。
艶黒箔「CB-GEM BLACK」でクリアできなかった課題は、本来プラスチック用としては強みとしていた「塗膜の薄さ」が、ベタ表現を箔押しする際にベースフィルムの僅かなシワを拾ってしまうことでした。「美しさは細部に宿る」。自分たちの詰めの甘さから、その言葉の重みを学ばせていただきました。
今後はこの商品に改良を加え、より多くのお客様に愛される箔へと育てていくことで、最後の最後までこの箔の採用を模索してくださった皆様の想いに応えていきたいと思います。
最後に
約一年前に「【ご相談】とても黒い黒箔の件」というタイトルで小玉さんからメールが届いたことから始まった今回のプロジェクト。
“究極の黒”を表現するために、それぞれが向き合った結晶がこの図録に詰まっています。
ぜひ企画展をご覧の際には、図録も手に取っていただき、“活版印刷魔法の世界”に浸っていただければ幸いです。
● 展覧会情報
「黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版印刷文化」
■ 開催会期 2025年4月26日(土)-7月21日(月・祝) 10:00-18:00
■ 会場 印刷博物館
東京都文京区水道1丁目3番3号 TOPPAN小石川本社ビル
入場料 一般1,000円、学生500円、高校生300円
※中学生以下、70歳以上の方、障がい者手帳等をお持ちの方とその付き添いの方は無料
■ 概要
15世紀半ば、ドイツの金細工師ヨハネス・グーテンベルによって完成された活版印刷術。
テキストの複製手段が主に手写だったヨーロッパでは瞬く間に広まり、以後500年にわたって文字印刷の主流であり続けました。現在では過去のものとされている活版印刷術と活字書体が国の文化形成に大きく影響を与えた様子を、ドイツを通して振り返るとともに、グーテンベルクの功績に迫る企画展示。
■ 詳細URL
https://www.printing-museum.org/collection/exhibition/t20250123.php
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